
データ分析の依頼を受けたとき、「とりあえず集計してみよう」と手を動かしてしまったことはありませんか?
実は、分析で手戻りが起きる原因の多くは、分析に必要な情報の確認不足から来ていることが多いです。
目的や使う場面が曖昧なまま作業を進めると、後から「見たかった数字はこれじゃない」「この単位では判断できない」「会議で結局使われなかった」といったことが起きやすくなります。
分析で最初に確認すべきなのは、グラフの種類でも集計軸でもありません。「この分析結果を見て、誰が何を判断するのか」です。
この記事では、分析依頼を受けたときに最初に確認しておきたいことを6つに整理しました。
分析依頼で手戻りが起きる理由
手戻りが起きる大きな原因は、依頼者・利用者・意思決定者の認識がそろっていないことです。
依頼者が言ったこと、実際に見たいこと、最終的に判断したいことは、必ず全てが一致するわけではありません。
たとえば「売上を分析してほしい」という一言でも、例えば以下のように、その裏にある目的はバラバラなことがあります。
売上全体の増減を把握したい
店舗ごとの差を比べたい
どの商品カテゴリが落ちているか知りたい
キャンペーンを続けるか判断したい
「売上を見たい」と言われて月別の集計を出したのに、実は「商品カテゴリ別の落ち込み」が知りたかった、というケースもあります。その場合、月別で集計した売上では依頼者は判断に使えず、結果としてやり直しになります。
集計を始める前に「何のために使う分析なのか」を確認する必要があります。では、具体的に何を確認すれば手戻りを防げるのでしょうか。まず押さえておきたいのが、「何を知りたいか」と「何を決めたいか」の違いです。
最初に確認すべきは「何を決めたいか」
分析依頼でよくあるのが、「何を知りたいか」だけで話が進んでしまうパターンです。でも、本当に確認すべきは「何を判断したいか」です。
判断したいことが決まると、必要な指標・粒度・比較対象が自然と絞れます。逆に依頼者が最終的に何を決めたいのかが曖昧なまま進めると、数字を出しても判断に結びつかないまま終わりがちです。
たとえば「広告の効果を見たい」という依頼だけでは、何を出せばいいか決まりません。でも「来月も同じ広告を続けるか判断したい」なら、広告費・クリック数・コンバージョン数などを出せばいいと分かります。
「何を分析しますか?」ではなく、「この結果を見て、何を決めたいですか?」という質問に変えるだけで、分析の方向性が定まります。では、この「判断内容の確認」を含め、分析依頼の場面で実際に押さえておきたい確認項目を6つに整理します。
分析依頼を受けたら確認したい6つのこと
目的だけでなく、誰が使うのか、どの場面で使うのか、どの単位で見るのかまで確認しておくと、作業の方向性をそろえられるようになります。ここでは、最初に確認しておきたいことを6つに整理します。
1. 何を判断したいのか
「売上を見たい」「アクセス数を確認したい」という依頼は、まだ目的として粗い状態です。判断内容が決まることで、必要な指標や見せ方が決まります。6つの確認項目のなかでも、ここが一番大事な項目になります。
同じ「売上分析」でも、「なぜ下がったか原因を探したい」のか「この施策を続けるか決めたい」のかで、出すべき数字はまったく変わります。
データ分析の国際標準プロセスであるCRISP-DM(データマイニングのプロセスを体系化したフレームワーク)でも、分析に着手する前に「ビジネス目標の定義」と「成功基準の明確化」を最初のステップとして位置づけています。目的と成功基準が曖昧なままでは、分析結果がビジネスの判断につながりません。
(参考:IBM SPSS Modeler CRISP-DMガイド(IBM))
分析の出発点は、判断内容です。
聞き方の例:「この分析結果を見て、最終的に何を判断したいですか?」
2. 誰が見るのか、誰が決めるのか
依頼してきた人と、分析結果を実際に使う人、最終的に意思決定する人が、同じとは限りません。
担当者は明細データを見たいけれど、会議では全体傾向と判断材料だけが必要、というケースは実務でよくあります。見る人が変わると、必要な情報の単位や見せ方も変わります。
IPAのDX SQUARE「要件定義とは?」でも、誰がどの役割で関わるかを整理することが、認識のズレを防ぐ基本とされています。システム開発の話でも聞きますが、分析においても同じことが言えます。
(参考:要件定義とは? 今さら聞けないDX関連用語をわかりやすく解説(IPA DX SQUARE))
誰の判断に使う分析なのかを確認しておくと、アウトプットの出し方を合わせられるようになります。
聞き方の例:「この分析結果は誰が見ますか?」「最終的に判断するのは誰ですか?」
3. いつ・どこで・どう使うのか
分析結果がいつ、どの場面で使われるのかによって、必要な情報量や形式が変わります。
会議用なら結論がひと目でわかる形、日次確認用なら毎日更新しやすい形、詳細調査用なら深掘りできる形が向いています。「いつまでに必要か」という期限と、「どの場面で使うか」まで確認しておくのがポイントです。
環境省の業務要件定義書テンプレートでは、「業務の時期・時間」「業務の実施場所」「入出力情報の用途」が要件定義の必須項目として明示されています。分析のアウトプットも同じで、使われる場面が変わると必要な形式も変わります。
(参考:業務要件定義書テンプレート(環境省))
聞き方の例:「どの会議や業務で使いますか?」「一度だけ使うものですか、継続して見るものですか?」
「誰が・いつ・何のために使うか」を確認することの大切さを整理した記事もあります。要件整理から作成まで一連の流れで学びたい方は併せて読んでみてください。
4. どの単位で見たいのか
「どの粒度で集計するか」は、判断のしやすさにつながります。
月別売上では全体の傾向は見えますが、「どの商品が落ちているか」はわかりません。商品別なのかカテゴリ別なのか、日別なのか月別なのかで、分析の形はまったく変わります。
環境省の業務要件定義書テンプレートでも、「管理対象情報一覧」としてデータの項目・取扱量・粒度を要件として明記する欄が設けられています。どの単位で見るかは、曖昧にしてはいけない確認事項のひとつです。
(参考:業務要件定義書テンプレート(環境省))
単位がズレると、依頼者が意思決定に使える数字になりません。分析前に、見る単位を確認してそろえておきましょう。
聞き方の例:「日別・週別・月別のどの単位で見たいですか?」「商品別・カテゴリ別・店舗別など、どの切り口で見たいですか?」
5. 何と比較して判断するのか
数字は単体では「良いか悪いか」が判断できません。比較対象があって初めて意味を持ちます。
売上100万円でも、前月が80万円なら増加ですし、目標が150万円なら未達です。同じ数字でも比較対象によって判断はまったく変わります。
総務省統計局「労働力調査の結果を見る際のポイント」でも、月次統計を分析する際に前月比と前年同月比のどちらを使うかで、読み取れる動向が大きく変わることが示されています。前月の数字には季節変動が含まれるため、単純に前月と比べると実態を見誤る可能性があります。統計の現場でも、比較対象の選び方は重要視されています。
(参考:労働力調査の結果を見る際のポイント No.20(総務省統計局))
何と比べるかを決めないまま数字を出しても、判断材料として使えません。比較対象も先に決めておきましょう。
聞き方の例:「前月と比べたいですか? 前年同月ですか?」「目標値との比較も必要ですか?」
6. 使えるデータと定義は合っているか
目的が決まっていても、必要なデータがそもそも存在しないことがあります。また、同じ言葉でも人によって定義が違うケースも少なくありません。
「売上」が税込か税抜か、「申込数」がフォーム送信数なのか、契約完了数なのか。こうした定義のズレは、後から数字そのものが疑われることになります。
CRISP-DMでも、ビジネス目標を決めた直後のステップとして「使えるデータの確認」と「用語の定義の確認」が明記されており、目的と同じタイミングで確かめるべき項目とされています。
(参考:IBM SPSS Modeler CRISP-DMガイド(IBM))
分析前に、使えるデータと指標の定義をそろえておきましょう。
聞き方の例:「この指標はどのデータをもとに計算しますか?」「売上や申込数の定義は、関係者の間でそろっていますか?」「必要なデータは今の環境で取得できますか?」
確認するときは、質問を具体化する
6つの確認項目が分かっても、聞き方が抽象的だと相手も答えにくくなります。ここでは、実務で使いやすい確認の仕方を整理します。
「目的は何ですか?」では答えにくい
確認項目が分かっても、「目的は何ですか?」と抽象的に聞くだけでは、依頼者も答えにくいことがあります。依頼者自身も、最初から目的や見たい切り口を整理できているとは限らないからです。
そういうときは、選択肢や具体的な場面を添えて聞くと、お互いに認識をそろえられるようになります。
抽象的な聞き方(避けたい例):「目的は何ですか?」
具体的な聞き方(使いやすい例):
「分析結果を見て、会議で何を決めたいですか?」
「前月と比べたいですか、それとも目標値と比べたいですか?」
「全体の傾向が見たいですか、それとも商品別・店舗別に見たいですか?」
私の場合は、分析依頼を受けたタイミングで、6つの確認項目をもとに依頼者と話す30分〜1時間のミーティングを設定すると思います。メールやチャットで何往復もやり取りするより、一度に認識をそろえられるからです。ミーティング前に確認したい項目を共有しておいたり、質問時に選択肢を示しながら聞くと、会話がスムーズに進むと思います。
最初から完璧に決めようとしなくていい
分析前の確認は、すべての条件を完璧に固めることが目的ではありません。
実務では、依頼時点でまだ目的が曖昧なこともあります。それは珍しいことではないですし、すべてが決まってから動こうとすると、むしろ前に進まなくなります。
最低限、「誰が・何を判断するために・どのデータを見るのか」が分かれば、大きく方向性を外すことは少なくなります。
分析結果が実際の判断に使える状態に近づけることが目的です。まずは最低限の確認から始めるのが現実的です。
まとめ
分析依頼を受けたら、まず「何を判断するための分析なのか」を把握するために、次の6つを確認しましょう。
何を判断したいのか
誰が見るのか、誰が決めるのか
いつ・どこで・どう使うのか
どの単位で見たいのか
何と比較して判断するのか
使えるデータと定義は合っているか
これら全部を最初から完璧にそろえる必要はありません。しかし、「誰が、何を決めるために、どのデータを見るのか」だけでも確認しておくと、分析の方向性は定まります。
分析は、集計を始める前の確認で半分決まります。次に分析依頼を受けたときには、まず「この分析結果を見て、何を決めたいですか?」と一言確認するところから始めてみてください。