
ダッシュボードを見た人が「どこを見て・何を判断すればいいのか分からない」そんな状態を、私は自分の練習で作ってしまったことがあります。
サンプルデータを使ってTableauでダッシュボードを作った時に「このデータを使えばグラフが作れそう」という感覚だけでなんとなくグラフを作っていました。そのため、完成したダッシュボードを見ても「これは何が判断できるダッシュボードになっているんだろう?これで良いのだろうか?」という迷いや不安が生じました。
そこから、デジタル庁が公開している「ダッシュボードデザインの実践ガイドブック」(2025年2月19日更新版)を参考にしたことで、失敗から改善に繋がりました。
この記事では、ガイドブックの要点を押さえ、実務でも活用できることを示したいと思います。そのうえで、私がガイドブックに従ってTableauでダッシュボード作成をした手順と、改善できたこと・その体験を共有します。
今回のプロセスで得たポイントは、「見る人のことをどこまで考えられるか」です。
記事内では以下のガイドブックの章について、触れていきます。
2章 要件の整理
3章 プロトタイピング - 3.2 載せるべき情報を整理する、3.4 レイアウトの考え方
4章 情報表現のポイント ‐ 4.2 グラフの種類と選び方、4.4 グラフ設計の原則、4.5 Do's Dont’s
「ダッシュボードデザインの実践ガイドブック」が公開されているページはこちらです。ぜひダウンロードして、この記事と一緒に読んでみてください。
ガイドブックで特に参考にしたいポイントの紹介
2章 要件の整理
2章では、なぜ要件の整理をする必要があるか、要件を整理するための考え方などが次のように書かれています。
「ダッシュボードには必ず見る人が存在し、その人が解決したい課題や、必要とする情報があります。」(引用:ガイドブック9p)
「要件を整理するための第一歩は、見る人が誰であるかを考え、ダッシュボードの目的を定義することです。」(引用:ガイドブック10p)
ガイドブック内9ページでは、要件定義ワークシート(PowerPoint)をダウンロードできるようになっています。
要件定義では、“Why / What (+so What )/ Who / When / Where / How” の5W1Hの形式に沿って進めていきます。ダッシュボードを見る人の目的や何のためにいつ見るのか、そのために必要な情報は何か、などの問いに対して適切に答えていきましょう。
3-4章 プロトタイピング/情報表現のポイント
3章の「3.4 レイアウトの考え方」では、「ダッシュボードのレイアウトは、見る人の視線の動きに合わせるように、左上から右下に向かって、全体から部分が並ぶように配置します。」(引用:ガイドブックp23)と書かれており、16:9の画面用のレイアウトグリッドのテンプレートが用意されています。
左上には、最初に見るべき大きな指標を示し、右下に行くにつれ判断や行動に役立つ細かい指標を表示すると、人の視線の動きの順番に合わせた情報設計になります。
4章の「4.4 グラフ設計の原則」「4.5 Do's Dont’s」では、「情報が正しく伝わるグラフを作るための原則として、『知りたいことを知れる』『誤解を生まない』の2つを提示」(引用:ガイドブックp38)しています。
4.4と4.5それぞれで「知りたいことを知れる」「誤解を生まない」ためのチェック項目があるので、セルフチェックする時に有効です。
※P49にて、5.1 チャート・コンポーネントライブラリ(ベータ版)というPower BIファイルがダウンロードできます。私はTableauで自作し使っていないため、本記事では扱いません。
ガイドブックに沿ったダッシュボード構築手順
ガイドブックを参考にしながら、私が実際にダッシュボードを0から作り直した手順について紹介します。
今回はTableauから出ているサンプルスーパーストアのデータを使って、KPI(業務目標の達成度を追うための指標)ダッシュボードを作成します(私が冒頭で話した失敗のダッシュボードを作った時と同じデータです)。
Step0 ペルソナ設定
※今回は練習のため実際に見るユーザーはいませんでしたが、実践的な練習にするためにペルソナを設定しました(実務では、「見る人が誰で、どんな役割で、どういうことに関心のある人なのか…などを整理する」というフェーズになるはずです)。
ペルソナを定義する(役職・何を重視するか・ダッシュボードの利用目的を考える)
私は、これから作るダッシュボードを使う場面から想像し、ペルソナを5人分作りました。(今回は練習のために5人分作りましたが、実務では関係する主要役職の人を考えると良いと思います。そして、誰の意思決定を最終的に優先するかを決めましょう。)
その中で、役職と主業務、重視する指標や情報、KPIダッシュボードの利用目的などを考え、要件定義ワークシートに追記しました。私が実際に作ったシートが以下です。

要件定義ワークシートに自分で追加した、意思決定者(ペルソナ)についてまとめたページ
ここでペルソナがダッシュボードで「何を判断するか」を定めたことで、以降の要件定義がスムーズになりました。
Step1 要件定義ワークシート記入
まずは、プロジェクトの基本情報のシートを埋めます。
達成すべき目標
関係者
ダッシュボードの制約
データの制約
想定されるリスクと許容度
スケジュールの整理(私の場合は、練習用だったため空欄にしていました)
以上の6つについて整理しておきます。
これらを整理することで、何のためにダッシュボードを作っているのかという迷いをなくしたり、ダッシュボードを作る時に考えておくべきことを整理しておいたりできます。

次は、5W1H に沿って目的や求められる情報などを整理していきます。
私は、それぞれの意思決定者(ペルソナ)毎に、ダッシュボードを活用している場面を想像しながら、順番に空欄を埋めていきました。特に、ペルソナで考えた「重視する指標」と「KPIダッシュボードの利用目的」から想像して、箇条書きにした項目ごとに“What (+so What )/ When / Where”を埋めました。(PowerPointを編集してワークシート内の枠を増やしました)


この時、ガイドブックを読んで要件定義をしたことで、どんなデータ項目が必要か・そのデータ項目の優先度が分かってTableauで作るべきシートが明確に見えた感覚がありました。
要件整理の考え方はダッシュボード構築だけでなく、データ分析を依頼・進める場面でも同様に重要です。こちらの記事では、分析を始める前に確認すべき事項をチェックリスト形式でまとめています。要件定義に慣れていない方は、先に読んでおくと整理しやすくなります。
Step2 シート作成(Tableau Public使用)
ここでは、要件定義をしたワークシートからダッシュボードで必要となるシートを考え、ざっくりとしたレイアウトの構想も練っておきました。
必要となるシートの内容は要件定義のHowの部分で考えていたので、どんな視覚化とするかを具体的に考えて形にしました。この時、必要な内容を伝わる表現となるように、チャートなどに落とし込むために、3章の「3.2 載せるべき情報を整理する」や4章の「4.2 グラフの種類と選び方」を参考にしました。
例えば要件定義ワークシートで、代表取締役社長は「週間総売上と総利益」を重視し、目的は「目標に対する、週次の売上と利益を確認し、対策等を講じるため」とあります。このために、総売上と総利益の数値と同時に目標値や前年比を出すことで、この人の意思決定をサポートすることができると考えました。この考えから、「3.2 載せるべき情報を整理する」を確認して、グラフは指標を選んでシートを作りました。
このように、要件定義ワークシートから、必要な内容とそれをどう表現すると意思決定のサポートができるかを考え、シートを作っていきます。
レイアウトを考える時は、3章の「3.4 レイアウトの考え方」にあったように、左上には最初に見て欲しい大きな指標を示し、右下に行くにつれ判断や行動に役立つ細かい指標となるように頭の中で考えました。
要件定義をしてからTableauでのシート作成に取り掛かったおかげで、作ったけれどもダッシュボードには使わなかったという不要なシートを量産しなくなりました。
Step3 Tableauでダッシュボード構築
シートが完成したら、1枚のダッシュボードにするためにレイアウトグリッドのテンプレートに沿って実際に配置を調整しました。Step2で考えていた左上から右下への視線誘導を意識して配置していきます。
(今回の私の場合は、全ての役職の人が重視する指標を1枚のダッシュボードに盛り込むことができましたが、実務ではそれが難しい場面もあると思います。その場合は、優先度で配置や何枚目に入れるかを考えるのが有効だと思います。私は、考えたペルソナの中の代表取締役社長を特に優先して、ダッシュボードのレイアウトを考えました。)
最後に、データが何を表しているかが分かるように、ガイドブックのP38からP46のポイントに従って各シートの調整をしました。
ガイドブックの該当ページには、各チェックポイントについての補足説明や図解が分かりやすく書かれているため、ぜひそちらをご参照ください。
参考までにチェックポイントだけを簡単に示します。
【グラフ設計の原則:知りたいことを知れる】
シンプルにする
意味のある順列にする
強弱をつける
待たせ過ぎない
【グラフ設計の原則:誤解を生まない】
わかりやすく表記する
データを定義する
表現を歪曲しない
メタ情報を記載する
【Do's Dont's:知りたいことを知れる】
全体の指標と詳細のグラフを表示する
グラフ項目の並び順に意味を持たせる
不要な要素は削除する
不要な装飾やリッチな表現は使わない
グラフに使用する色数を絞る
【Do's Dont's:誤解を生まない】
タイトルにグラフの内容とデータ種別を表記する
タイトルや凡例をシンプルに保つ
タイトルと凡例を隣接する
グラフの原点は原則として0にする
色のみで分類を識別しない
私の場合は、上記項目の中で太字にした「シンプルにする」「不要な要素は削除する」「グラフに使用する色数を絞る」の3点について、特に意識しました。その結果、グラフで伝えたい内容に目が行きやすく、視線も迷いにくくなったと感じています。
これらのチェックポイントの背景には、人が視覚的に瞬時に情報を認識する仕組みが関係しています。こちらの記事では、ダッシュボードデザインにおける前注意的属性について解説しています。セルフレビューの精度をさらに上げたい方は、あわせて読んでみてください。
ここまでやってみて、元々作ったダッシュボードよりもガイドブックに沿って作ったダッシュボードの方が自信を持てましたし、完成までにかかった時間が短く感じました。
Before / After 比較
では、実際に私が作ったBeforeとAfterのダッシュボードを見比べて、どんなところが改善したかを具体的に見てみましょう。
Before:
画像のダッシュボードは、それっぽくできていて悪くなさそうに見えるかもしれません。しかし、これを見ながらスーパーストアの経営会議をすると考えると、以下のような欠点があります。

主要KPIが左上から横に並んでいますが、前年比の▲▼が何を表しているかが分かりにくいです。
色やグラフの形が散在しており、どこから見たらよいか迷います。
どんな場面で誰が見るのかを考えられていないため、どこが重要な指標なのか、どんな判断を支える指標になっているか、何の意思決定ができるかが分かりません。
After:

色が青と赤の2色に整理され、主要KPIが左上に集約されており、最初に目に入った時に前年比や目標値との比較も+は増、-は減とすぐに分かるようなラベルになっています。
視線誘導を意識した配置になっており、目標値に対する実績値が最初に目に入ります。その次にだんだんと判断に役立つ細かな指標が見えるようになっています。
要件定義で考えた意思決定者(ペルソナ)の重視する指標を上位に配置し、週次会議での意思決定につながる並びにしました。(例:左上に「週間総売上と総利益」、左下に「顧客タイプ別の売上変化」)
Before / Afterの画像だけでは見えない改善点としては、以下があります。
なんとなくで作ったダッシュボードの方は「実際に使うイメージが湧かない」という状態でしたが、(ペルソナ設定や)要件定義を経て作ったことで「実際の会議などで使えそう」という自信を得ました。
ダッシュボード構築にかかった時間が体感としてかなり短くなりました。
なんとなくでシートを作ったが、ダッシュボードでは使わなかった、というシートがなくなった
「これでいいのか?」という漠然とした迷いや不安があったのですが、ガイドラインという拠り所を得て、実際にやってみることで「たしかにこうすると分かりやすくなるな」という感触を得られました。
ガイドブックに紹介されている通りにダッシュボード構築を進めただけで、私の場合は以上の様に改善しました。ダウンロードすれば、皆さんもすぐに取り入れることができます。
ガイドブックを以下のような手順で活用すると、皆さんのダッシュボードもより良くなると思います。
要件定義ワークシートをダウンロードして、1枚目から順番に空欄を埋めていく
要件定義ワークシートに書いた5W(誰が・いつ・何のために見るものになるかなど)を意識してシートを作成する
レイアウトグリッドに従って、ダッシュボードを作成する
ガイドブックの「4.4 グラフ設計の原則」「4.5 Do’s Dont’s」を使ってセルフレビューする
まとめ
デジタル庁のダッシュボード作成のガイドブックについて、私のダッシュボード改善に繋がった体験、ガイドブックの活用方法を紹介しました。
「見る人のことをどこまで考えられるか」で、伝えたい内容をどうやって見やすい表現にするかを工夫することができることを実感しました。
今回紹介したデジタル庁ガイドブックの活用ポイントは以下です。
2章にある要件定義ワークシートを 5W1H で埋めると、ダッシュボード設計の指針ができ、KPI とレイアウトの優先順位の見通しが立つ
「3.4 レイアウトの考え方」に沿って、配置を考えることで自然な視線誘導ができる
「4.4 グラフ設計の原則」「4.5 Do’s Dont’s」のチェックポイントを使って、ユーザーにとって見やすかったり、行動を促したりするものになっているかを、セルフレビューすることで見やすさの品質を均一化できる
活用シーンとしては、次のような場面が考えられます。
新規ダッシュボード企画の指針として
既存ダッシュボードの再構築の指針として
社内勉強会の教材として
このガイドブックに沿ってダッシュボードを構築することで得られるメリットとしては、以下があると考えています。
要件定義で「何を見て何を判断するか」を共通言語化でき、認識ズレを減らせる
要件定義とチェックリストを活用することで、レビューからの指摘が減り、手戻りが削減される
皆さんの業務でも、ぜひ今回紹介した「ダッシュボードデザインの実践ガイドブック」を活用してみてください!